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今までも何度も記載してきたが、牛糞を堆肥として捉え土作りをするのは止めた方が良い。

理由はいくつかあるのだけれども、それらの理由を感と経験だけで栽培している方にとって、どれもイメージがし難いらしい。


ここ数年、栽培が難しくなったと相談を受けた時に、ほぼ全員が牛糞で土作りをしていちえ、牛糞の施肥を止めて、植物性の有機物へ切り替えただけで安定している。


牛糞は有機質肥料として優れているかもしれないが、堆肥、つまりは大量に投入するものとしては向いていない。

牛糞は有機質肥料としてイメージすれば、一作あたり400kg程度の施肥になるけれども、堆肥というイメージを持つと、一作あたり2トンとかを余裕で超えてしまう。


牛糞堆肥による土作りを勧めてくる方の腕は確かか?の記事で触れたけれども、牛糞を堆肥として利用すると、11年目あたりから突然栽培が難しくなる。

栽培の難易度を高める要因が慢性的なマンガン欠乏なのだけれども、実はこの症状が非常にわかりにくい。


作物の生育にとってマンガンが如何に大事であるか?を頑張って伝えてみることにする。




作物とマンガンと聞いて連想するのが、マンガンクラスター活性酸素の沈静化の二つがある。

マンガンクラスターは植物の成長で超重要な反応の光合成の初期段階で作用するもの。

光合成は水と二酸化炭素からブドウ糖を作る反応が一般的だけれども、細かく書くと


mangan_cluster


水(H2O)をぶった切って、水の中にあるエネルギーを取り出すというとんでもない反応でマンガン(Mn)が利用されている。

水からエネルギーを取り出す時に作用するものはマンガンクラスターと呼ばれている。

化学式で書くと、2H2O → 4H+ + O2 + 4e-

※e-が水から取り出したエネルギー

酸素発生型光合成の誕生の前に


この話から慢性的なマンガン欠乏になると、葉が受光しても光合成をあんまりしてくれないのかな?と連想できれば十分。

実際には植物にとって光合成は超重要な反応なので、今回の紹介した内容は最優先で行われるはず。


であれば、マンガンの他の使いみちが弱体化するはず。




マンガンの作用で次に思いつくものが、


peroxydase


葉で常に発生している活性酸素の沈静化すること。

葉では光合成の副産物として活性酸素が発生する他、葉に病原性の微生物が侵入した時も防御反応として活性酸素が発生する。


活性酸素の厄介なところは無差別な攻撃性を持つことで、侵入した微生物を攻撃する以外に、自身も傷つけてしまう。

必要量以上の活性酸素が発生した時に活性酸素の除去の酵素が働くのだけれども、これらの酵素はマンガンを必要とするものがある。

重要だけど扱いにくいものでもある二価鉄


この話から慢性的なマンガン欠乏は病気に対して弱くなるのかな?と連想できれば十分。

おそらく光合成よりも前に病気に対する耐性の弱体化が先にくるはず。


植物内でのマンガンの働きは他にもあるけれども、今回はここまでにしておく。




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牛糞による土作りで他に陥りやすい症状が塩類集積で根を痛めたり根の伸長が抑えられ吸水力が低下するというものがある。

家畜糞による土作りの土から収穫した野菜の摂取は健康に繋がるか?


牛糞の中に作物にとって優位な成分があったとしても、吸水力が落ちてしまえばそれらを吸収することができなくなる。

当たり前の話だけれども、優位な成分の中にはマンガンや今回触れていないが亜鉛もあるわけで、慢性的なマンガン欠乏が助長する。

亜鉛欠乏と植物のオートファジー




話は変わるが、食中毒の話で、弱毒の食物と毒性が強い食物があったらどっちが怖いか?という内容で、毒性が強ければ警戒して食べないけれども、弱毒の食物は食べ続ける事があり、知らないうちに取り返しのつかない事になっているという話があり、実は弱毒の食物の方が怖いという話がある。

弱毒の食物が一般的に体に良いというイメージがあると更にたちが悪い。

ある人は大丈夫だけれども、他の人は摂取後に腹を下すといった食物が危ないのだけれども、今回の牛糞の話は弱毒の食物の話と似ている。


牛糞を堆肥として利用した場合、一年目は好調な栽培となり、二年目は若干成長が落ちる。

三年四年と経過するに従って、栽培は不調になるが、一年目の成功体験があるので牛糞を疑うことはせず、天候や周辺の畑がしっかりと管理をしていないからだと犯人探しを始める。

十年目になる頃にはどうしようもなく秀品率が落ち、農薬の使用量も半端ないものになり、経費ばかりかかって利益がなくなる。


いずれは人手不足や高齢化といった理由で耕作を放棄する。

そんなところをたくさん見てきた。


感と経験だけではなく、先日の知恵である科学を学ぶのは大事だよ。

とりあえず、日本にはびこる停滞感からの脱却はメディアが感と経験の栽培を称賛しないことからではないだろうか?


牛糞を堆肥として使用せずに植物性の有機物を使用すれば、土に埋没する炭素量が減り、発根が促進され光合成量が増え、大気中の二酸化炭素量が減るだろうから、気候の安定さに貢献出来るはず。

ブナシメジの廃菌床を活用したい


そうなると、あまった牛糞の処理はどうすれば良い?という話になるけれども、養分を貪欲に吸収しつつ土を良くする緑肥に吸わせれば良い。

栽培と畜産の未来のために


追記

牛糞での土作りでは土の生物性にも悪影響を与える可能性があるのだけれども、その話はいずれ機会がある時に。


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