特に土耕でトマトの栽培では、木をいじめて実る果実の品質を向上させるという手法がある。

具体的な内容は果実の形成前後で水をギリギリまで与えず、果実内の濃度を凝縮させる。


それ故、土耕でもトマトはビニールハウスのような降雨を避ける栽培が好まれる。

施設栽培でも水の調整はあるので、水の取り扱いは大事になる。


これらの内容を踏まえた上で、乾燥ストレスを感じたら植物はどうなるのか?を見ていく。

乾燥ストレスには大きく二つあって、一つは単純に水を切った水がない状態で、もうひとつは塩類集積等の土壌の肥料分が多めで土壌の浸透圧が高まりすぎてしまった場合がある。

後者の内容については、植物ホルモンから再び牛糞堆肥による土作りの価値を問うの記事で記載したので今回は触れないことにする。


前者の土壌中に水がない状態であるとトマトはどのような挙動を示すか?を見てみる。





トマトの根が周辺の土から水がないという情報を受け取ると、この情報がトリガーとなって、


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植物ホルモンのアブシジン酸の合成が活発化する。

アブシジン酸は老化のホルモンと言われ、根から茎を経て葉へ輸送される。

株が成長中である時のアブシジン酸の主な働きは芽の休眠、気孔の閉鎖と水ストレス耐性の増加がある。

後は植物ホルモンのエチレンとの相互作用で葉の老化や器官離脱がある。

※過度な乾燥によって維持コストが高い花の器官を落とすのは理に適っている。

新しい植物ホルモンの科学 第3版 - 講談社のアブシジン酸の章を参考にした


トマト栽培の栄養成長と生殖成長を意識するの記事で触れたサイトカイニンの合成も根で、乾燥ストレスでサイトカイニンの合成量も減るはずなので、生殖成長に傾くと言えるかもしれない。

イネは長い育種の歴史においてサイトカイニン含量が増えた


水ストレス耐性の増加は葉に糖や糖原性アミノ酸であるプロリンの蓄積などが挙げられ、水の調整によって葉に蓄積したものが養分転流で果実に移行するということであれば、果実内の糖の凝縮は更に凄い事になるかもしれない。

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アブシジン酸に関して厄介な事があって、アブシジン酸は植物の病害虫の耐性に関与する植物ホルモンのサリチル酸やジャスモン酸の合成を抑制してしまうようだ。

ヨトウ対策は植物ホルモンの視点から


美味しいトマトを収穫するためには乾燥ストレスを適度に与える必要があるけれども、ストレスを与えると農薬のコストが上がるということを常に頭に入れておく必要がありそうだ。




余談だけれども、植物は痛みを感じた時にグルタミン酸を用いて全身に伝えているの記事で、ナズナでグルタミン酸の葉面散布をすると耐性を強化させるという研究報告を紹介した。

トマトでも同様の機能があると仮定して、葉でグルタミン酸を痛みの伝達物質として活用していたことから、葉面散布でグルタミン酸が適切に染み込んだとすると、木をいじめないとしても、水ストレス耐性の一つの糖原性アミノ酸の濃度が増加したことになるわけで、水を切らなくても果実内の糖の濃度が薄まるという状態は回避できる。


あとは木が暴れるという状態に入り花の器官離脱にさせないことが大事だけれども、亜鉛が器官離脱のトリガーになっているという仮説が正しければ、これも微量要素の葉面散布で回避できる。

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