写真:長野の栄村小滝集落の米づくり前編より
米の収量に関することを見ていく事にする。
講談社 新しい植物ホルモンの科学 第3版の36ページに
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サイトカイニン含量が高いイネの収量は高い。品種改良の過程でそのような品種が選択されたと考えられるが、その知見をさまざまな作物の品種改良に適応できる可能性もある
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と記載されている。
一般的にサイトカイニンは分げつ(脇芽)の伸長、茎や根の肥厚成長や植物体内での養分転流(葉の老化も含む)に関与しているので、収量や秀品率にとって重要であることはすぐにわかる。
ただし、植物体内でのサイトカイニン量の上昇は根の伸長に対してはネガティブな影響を与える。
どちらにしろ、サイトカイニンについて知っておいて損はないので、今回の記事で整理しておくことにする。
高校生物でサイトカイニンについて触れる時、株の地上部側の先端(頂端分裂組織)でオーキシンが合成され、根でサイトカイニンが合成されて、互いに影響しあっているというようなニュアンスで習う。
生合成について細かく見ると、上記の内容は少し異なるらしい。
サイトカイニンの生合成と輸送 - 植物の生長調節 Vol.51, No. 1, 2016によるとサイトカイニンは大きく4種類の型に分かれるらしい。
※図:サイトカイニンの生合成と輸送 - 植物の生長調節 Vol.51, No. 1, 2016 26ページ図1を引用
・イソペンテニルアデニン(iP)型
・トランスゼアチン(tZ)型
・ジヒドロゼアチン(DZ)型
・シスゼアチン(cZ)型
の4種類に分類され、上記3種は
DMAPPと
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ATP/ADP/AMP等のリボヌクレオチドがイソペンテニルトランスフェラーゼ(IPT)という酵素の反応を経て合成される。
cZ型はtRNAのから取り出したリボ核酸とDMAPPがtRNAイソペンテニルトランスフェラーゼ(tRNA-IPT)という酵素を経て合成される。
IPTは地上部にある酵素なので、iP型のサイトカイニンは地上部で合成される。
※iP型サイトカイニンは根でも合成されるかもしれないけれども、その記述がある読み物が見つからない
サイトカイニンの作用の器官に対する特異性は側鎖の修飾により制御される : ライフサイエンス 新着論文レビューによると、iP型のサイトカイニンは地上部の成長制御に対しての影響は弱いらしい。
iP型サイトカイニンが師管を介して根に運ばれ、サイトカイニン水酸化酵素遺伝子(CYP735A)によってtZ型サイトカイニンとなる。
tZ型サイトカイニンは地上部の成長制御に対して強い影響を与えるもので、導管を介して地上部に運ばれる事によって脇芽の成長が促進される。
※実際にはオーキシンによって休眠していた脇芽が目覚める
どの型のサイトカイニンも活性型とそうでない型があり、サイトカイニン活性化酵素(LONLY GUY:LOG)によって活性化する。
※残りの2つ型にはついてはこの場では触れない。
とりあえず、高校生物で習ったサイトカイニンは根で合成されるという内容は、サイトカイニン自体は根で合成というわけではないが、根によって地上部に強く作用するサイトカイニンへと修飾され地上部へ運搬されるというのが現時点での正しい解釈となるようだ。
植物ホルモンから再び牛糞堆肥による土作りの価値を問うの記事で見た根の周辺に栄養塩が豊富にあるとサイトカイニンの量が増えという内容は、サイトカイニン水酸化酵素の反応が促進されるという内容になりそうだ。