飛騨小坂の炭酸冷泉の記事中で紹介した温泉の本を読んでいる時、
高アルカリ性温泉水の章の考察で栽培にとって役に立ちそうな興味深い考察があった。
温泉にはpHが低い酸性と、pHが高いアルカリ性のものがあり、
地下水と比較すると地域によってpHは幅広い。
高アルカリ性温泉というpHが10前後の温泉が存在するのだけれども、
そこで気になるのが自然にある何の物質がpHを10まで上げるのだろうか?ということが当然挙がる。
自然でpHを上げる要因といえば、
名称に酸が付いているけれども炭酸塩がある。
例として重炭酸ナトリウムを挙げると、
NaHCO3 + H+ → Na+ + H2CO3
H2CO3 ⇆ H2O + CO2
でpHを酸性に傾ける水素イオンが一つ減るのでpHが上がる。
だけれども、先程上で挙げた炭酸塩(重炭酸塩)はpHが高い溶液内ではpHを上げるような作用はせず、
炭酸塩として析出される。
本の中では様々な調査が行われたことが紹介されており、
諸々の調査の末に行き着いた仮説の一つに
灰長石からCaモンモリロナイトを経てローモンタイト(濁沸石)へと変質する際のpHに与える影響が記載されていた。
灰長石というのは化学組成がCaAl2Si2O8で表される造岩鉱物で、
何らかの作用によりモンモリロナイトへと変質する。
この時の式は
7CaAl2Si2O8 + 12H+ + 8H4SiO4 ⇆ 6Ca0.167Al2(Si3.67Al0.33)O10(OH)2 + 6Ca2+ + 16H2O
(株式会社ナカニシヤ出版の温泉と地球科学 85ページより引用)
で水素イオンが灰長石に取り込まれつつモンモリロナイトへと変質しているため、
周辺のpHは上がる。
ローモンタイト(濁沸石)というのは化学組成がCaAl2Si4O12・4H2Oで表される含水の粘土鉱物で、
モンモリロナイトのもつ水酸化物イオンと溶液中のH+が変質中に中和反応を起こし、周辺のpHを高める。
今回は高アルカリ性温泉の話題だけれども、
粘土鉱物の変質は地表面でも日常的に起こっているとみて良いはず。
前々から気になっていたことがあるのだけれども、
土壌学において土の緩衝性は有機酸等の緩衝性のある物質が蓄積されること以外に土そのものが緩衝性を持っているという表現をよく見かけた。
土そのものは土を構成する鉱物で炭酸塩もあるので、
それらがpHに影響を与えると解釈しているけれども、
それ以外にも今回紹介したような灰長石の変質の際に含水鉱物への変質で水素イオンを鉱物内に組み込むという作用でもpHを高めることがイメージできるようになった。
温泉のおかげで土という不思議なものの理解がまた一つ深まった。
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