前回までの記事で、栽培者にとって非常に厄介な軟腐病菌の生理的特徴を確認した。
次に知るべきことは、軟腐病菌が寄生先の植物に侵入する際の武器(酵素)を止める手段を植物側が持っているかどうか?だ。
具体的には侵入用の酵素を阻害する物質が存在しているかどうか?
軟腐病菌が植物を攻撃する際に使用する酵素はペクチナーゼと呼び、植物の細胞壁同士を結合させているペクチンという多糖類で、ペクチナーゼは植物のペクチンを溶かす(分解する)ことによって寄生先の植物の細胞壁を弱体化させ、体内に侵入する。
このペクチナーゼは総称で、より明確な酵素名をポリガラクツロナーゼと呼ぶらしい。
これらを踏まえた上で、再び検索してみると、下記の特集記事に行き着いた。
植物免疫と細胞壁 植物の生長制御 Vol.50, No.1, 76-82, 2015
この特集記事には記事が発行される2015年までの間で解明した植物の免疫についてが記載されており、病原性の菌によるポリガラクツロナーゼの攻撃や昆虫の食害の際に、細胞壁付近でどのような防御を行うか?が図示されている。
病原菌由来のポリガラクツロナーゼの場合、
図:植物免疫と細胞壁 植物の生長制御 Vol.50, No.1, 76-82, 2015の77ページより引用
植物体内へ侵入を試みる菌(or 細菌)が分泌したポリガラクツロナーゼによって、細胞壁のペクチンが分解されてオリゴガラクツロナイドができる。
細胞壁に貫通しているWAK1がオリゴガラクツロナイドを受容すると、ポリガラクツロナーゼの阻害タンパクであるPGIPの合成の合図となり、PGIPによる植物側の防御反応が始まる。
※PGIPはPolygalacturonaseinhibiting proteins:ポリガラクツロナーゼ阻害タンパクの略
PGIPの構造をWikipediaで確認してみると、360個ぐらいのアミノ酸が結合した糖タンパクで、ロイシンリッチリピートの構造をしているので、ロイシンの割合が多い。
Polygalacturonase inhibitor - Wikipedia
これらを踏まえた上で、作物を軟腐病菌から守るという観点でできることといえば、阻害タンパクの合成で使用されるアミノ酸の材料を事前に用意させておくことぐらいだろうか?
追記
今回紹介した特集記事ではキチンの認識の話題もあった。
植物が断片化したキチンを細胞壁が感知すると何らかの防御反応を示すということならば、カニ殻肥料の効果に対する認識も土壌の病原菌密度を減らし、有用菌の密度を増やすといった環境の均衡以外にも、植物免疫を刺激という作用の面でも有効という観点が追加されることになる。
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