前回の石灰窒素の作用機序の記事で石灰窒素の主成分であるシアナミドの作用とアセトアルデヒドの毒性について触れた。
シアナミドの作用によって蓄積されるアセトアルデヒドはDNAやタンパクと結合といった重大な影響を与えることがわかった。
おそらくこの毒性は細菌等の原核生物や動物、植物やカビ(酵母)等の真核生物関係なく、DNAを持つすべての生物に影響を与えるはずだ。
更なる理解を深める為に検索していたところ、
出芽酵母のアセトアルデヒドに対する細胞応答と耐性機構 - Journal of the Brewing Society of Japan 第 107巻 第 9 号
という論文が引っかかった。
非常に簡単に要約すると、真核生物で最もシンプルな構造を持つ酵母をアセトアルデヒドストレス下におくと、アセトアルデヒドに対して二つの防御が見られた。
一つは
※出芽酵母のアセトアルデヒドに対する細胞応答と耐性機構 - Journal of the Brewing Society of Japan 第 107巻 第 9 号 634ページ目より引用
アセトアルデヒド環境下におかれると、糖からカロリーを取り出す過程を抑制して、糖からNADPHを合成する経路を活性化する。
このNADPHを用いて、細胞内のオレイン酸の量を増やし耐性を得る。
※オレイン酸によるアセトアルデヒド耐性の機構はこの論文中では不明とされている
もう一つは細胞内にグルタチオンを増やして、アセトアルデヒドを回収する。
※出芽酵母のアセトアルデヒドに対する細胞応答と耐性機構 - Journal of the Brewing Society of Japan 第 107巻 第 9 号 635ページ目より引用
グルタチオンは1分子あたり最大4個のアセドアルデヒドと結合できる。
グルタチオンといえば、作物の秀品率が高まるということで肥料としても注目が集まっている物質だ。
今回紹介した論文では、アセトアルデヒドは完全な悪者ではなく、何らかの良い作用もあるのでは?ということで後半に寿命関連で注目されているポリアミンの合成についての記述があるが、その内容はここでは触れない。
とりあえず、酵母(おそらくカビ等の菌でも言えるはず)で細胞内にアセトアルデヒドが蓄積されると、糖からカロリーを得る作用が抑制されることがわかった。
元々の話でアセトアルデヒドはタンパクと結合するため、重要な生理作用を機能停止する可能性もあり、体内に蓄積された毒を解毒できず死滅するということも考えられる。