化学同人から出版されている食感をめぐるサイエンス 味や香りだけではない,もう一つのおいしさを探るの本に非常に印象に残った内容があるので、自分なりの解釈で整理してみる。
焼きたてのクッキーがある。
一つは焼き立て後そのままのクッキーで、もう一つが水を含んだクッキーがある。
この二つを食べ比べてみると、
ほぼ全員がそのままのクッキーを美味しいと言うはずだ。
水は無味無臭とされるにも関わらず。
水を含んだクッキーで一番目立つ特徴は焼き菓子独特のサクサク感がなくなってしまうことだろう。
クッキーは冷めてもサクサク感があれば美味しいので、
クッキーの美味しさの要素は温度ではなく食感だ。
本に記述は無かったけれども、
水を含むことでクッキー特有の香気はなくなってしまったのでは?
という疑問が生じるかもしれない。
ただ、自分の行動を思い返してみると、
香りがなくても、サクサク感があればクッキーは十分に美味しい。
水を含んだクッキーはレトロネーザル嗅覚に嗅覚を与えるかもしれないけど…
ここで言いたいことは、
人が美味しさを感じる上で、味や香り以外に食感(食品のテクスチャー)も重要な要素である。
クッキーであれば、
最初サクサクで、歯で噛み砕く際に香りが生じ、徐々に唾液と混ざることで味覚に関する成分が溶け出し、味として感じ飲み込む。
乾燥したものから水分を含んでふやけていく過程もクッキーの美味しさの要素となる。
話は野菜の美味しさとは何だろう?の記事まで戻って、
チンゲンサイの栽培において、
元肥を米ぬか嫌気ボカシ肥と当時流行りだったとある農法用の慣行の肥料で比較栽培を行った時の話で、
前者と後者で食味の比較をしてみたところ、目立った特徴として後者の方が筋っぽかったということがあった。
筋っぽいというのは食材の食感であって、
冒頭のクッキーの話と合わせると、十分美味しさの決め手となり得る。
つまりは美味しい野菜を収穫したければ、筋っぽくなければ良いということになり、
比較栽培の結果が正しいと仮定するならば、
肥料次第で食感をコントロール出来ることになる。
それでは、野菜の筋っぽさとは何であるか考えてみる。
筋っぽいという言葉で思いつくのが、
オクラあたりで筋っぽいものに頻繁に遭遇するということだろうか。
オクラが筋っぽくなる最大の要因は収穫時期を逃し採り遅れることである。
この話を踏まえた上で、チンゲンサイやコマツナといった軟弱葉物を思い返してみると、
収穫時期の後期あたりから筋っぽいものが増えてきて、ほとんどの株で筋っぽさを感じたら収穫を終了する。
植物が成長するに従って目立ってくる特徴で繊維質がしっかりとしてきて丈夫になることがあり、筋っぽさの正体とはおそらく植物繊維(細胞壁)の量だろう。
ツユクサは一次細胞壁でフェニルプロパノイドを持って何をする?
細胞壁は筋っぽくなるし、細胞壁中のリグニン等は渋みの原因になるはず。
今までの話を整理すると、
筋っぽさが成長段階を示すパロメーターになるわけで、
肥料によって作物の成長を緩やかにするという観点が重要ということになる。
野菜の美味しさとは何だろう?では比較区で見た目があまり変わらなかったので、
成長が緩やかであるはずの米ぬか嫌気ボカシ肥の区の株の重量が成長が速い区とほぼ同じであることになり、
成長が速いというのは、すぐに大きくなるということではなく、個体としての老化が速い解釈が近いのかもしれない。
若さを保つ。
これが作物の美味しさに繋がっていくのかもしれない。