前回の有機リン系殺虫剤の作用機構の記事で、よく使用されている有機リン系殺虫剤の作用機構について触れた。

農薬を使用していて頻繁に挙がる話題として、農薬の効きが年々悪くなってきたというものがある。


同じ農薬を使用し続けると、対象となる昆虫等が耐性を持って効かなくなるというものだ。


何故効かなくなるのか?


enzyme1


酵素と基質の鍵と鍵穴の関係程厳密ではないけれども、酵素と農薬の間にもゆるい鍵と鍵穴の関係がある。

ビタミンを理解する為に補酵素を知る


上の図の右を農薬だと見立てて、


enzyme1_e1


鍵穴の形が変われば、酵素に対して農薬は作用しなくなる。

有機リン系殺虫剤に関して、突然変異によってAChEの構造が少し変われば、農薬は効かなくなるということだ。


これから記載する内容は、


01790


東海大学出版 耐性の昆虫学の第25章 殺虫剤耐性(抵抗性)のメカニズムを参考にするが、イメージを膨らませやすいように拡大解釈で記載する。

実際の作業においては大きく外れないと思うが、内容は外れているかもしれないということを意識しておいて欲しい。




ここで少し前に書いたゆるい関係とは何か?について触れておくと、


enzyme1


酵素と基質程、鍵穴にきっちりと基質が入る必要はなく、有機リン系農薬が鍵穴に入り込めれば作用する。


enzyme1_eb


つまりは変異したとしても小さめの有機リン系殺虫剤であれば作用することになる。


enzyme1_eb1


もう一つ見ておきたいのが、有機リン系殺虫剤が酵素に対して小さすぎた場合は作用しない。


これらを踏まえた上で、有機リン系殺虫剤一覧を眺めてみると、


diazinon_structure

農薬・動物用医薬品評価書 ダイアジノン(第2版) - 食品安全委員会 13ページより引用


ダイアジノンという古い有機リン系殺虫剤がある。

構造で見ると大きめの有機リン系殺虫剤となっている。


enzyme1_e1


左をダイアジノンだとして、酵素の鍵穴の形が変わってダイアジノンが効かなくなったとする。


acephate_structure

農薬評価書 アセフェート - 食品安全委員会 8ページより引用


ここで比較的新しいアセフェートを持ち出すと、アセフェートは比較的小さな有機リン系殺虫剤となる。


enzyme1_eb


変異した酵素はアセフェートの小ささであれば効く。

アセフェートが効くということでアセフェートを使用し続けると、昆虫はアセフェートに対する耐性を獲得する。


どのような耐性になるかというと、


enzyme1_eb1


鍵穴の形が戻って、小さすぎて効かなくなるというものだ。

この状態になると、古い有機リン系殺虫剤であるダイアジノンが再び効くようになる。


このようにある農薬に抵抗性を示すと、以前抵抗性を示した古い農薬に対して効果が戻る(感受性)ことと逆相関の交差抵抗性と呼ぶらしい。

※農薬の種類によっては上記の抵抗性はなく、使用している農薬全てに対して抵抗性がある場合もある

交差耐性 - Wikipedia


注意

今回の話はダイアジノンの抵抗性を獲得した後の話となるので、はじめて農薬を使用する時にダイアジノンの抵抗性を獲得していない昆虫に対してもアセフェートは効く。


注意2

酵素と農薬の鍵と鍵穴の関係は大きさという単純なものでなく、本来は化学的な結合の有無の視点で見ている