先に触れておきたい内容があったので、前回のサンショウの続きではなく、とある研究報告の話題を記載する。


晝間敬等 リン栄養枯渇条件下での根圏糸状菌による植物生長促進 - Jpn. J. Phytopathol. 84: 78–84 (2018)

タイトルを見てなんとなく推測できるような内容の研究報告を見かけた。

植物の根の根圏にいる糸状菌と植物が共生した時に、土壌中のリン酸が不足している場合は植物の成長促進が見られたといった内容だと連想するだろう。


連想の内容とは異なる研究報告だったので、この場で整理しておきたい。




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アブラナ科の植物で炭疽病の要因となるColletotrichum(コレトトリカム)属の糸状菌がいる。

炭疽病は菌の胞子が葉に付着したら、メラニン化した付着器を形成して葉内に侵入して発症する。

葉の色が濃いイネはいもち病に罹りやすい


そんな栽培者にとって厄介だと思われるコレトトリカム属の糸状菌だけれども、海外のシロイヌナズナの根圏から同属のC. tofieldiae(以後、Ctと略す)が高頻度で検出された。

Ctには上記で記載したような葉上から侵入して感染ということは見られず、


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※図:晝間敬等 リン栄養枯渇条件下での根圏糸状菌による植物生長促進 - Jpn. J. Phytopathol. 84: 78–84 (2018) 80ページ 図1より引用


他の科の植物で見られるアーバスキュラー菌根菌と共生と似たような形状を示した。

グロムス門の菌根菌とは何か?


今回の冒頭で記載した内容に戻るけれども、コレトトリカム属が根に感染した状態で、土壌中のリン酸が少ない場合、菌糸から宿主へのリン酸の輸送と成長促進が見られたそうだ。


この話を踏まえた上で、さらに興味深い内容を見ていく。




ダイコンから検出されたCtと近縁種のColletotrichum incanum(以後、Ciと略す)がCtと同様に根に感染する。

Ciの方はダイコン炭疽病の要因の糸状菌


Ctの代わりにCiを根に感染させたところ、リン酸が豊富にあるところでは宿主の成長が阻害されたが、リン酸が少ない場合は、リン酸の輸送が見られた。

※Ci感染による成長促進についての話題はなし


ここから土壌中のリン酸の量に応じて、病原性の糸状菌が寄生か共生か?振る舞いが変わる可能性があることがわかった。

※コレトトリカム属以外の糸状菌でも似たような現象が見られる




栽培でリン酸を連想すると、


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家畜糞で土作りをした時にリン酸が過剰になることが真先に思い浮かぶ。

牛糞で土作りをした時の弊害をまとめてみると


家畜糞によって、根からの養分吸収や光合成の質が低下する上、今回の話が合わされば、栽培は相当きつくなるのは安易に想像できる。

更に強力な温室効果ガスの一酸化二窒素の記事で触れた家畜糞を土に鋤き込んだ後に発生する脱窒によって強力な温室効果ガスが排出されるとなると、気候の面でも栽培は不利になる。


過剰になってしまったリン酸を土壌から抜き取る技術の開発が急務だね。

余分な養分は緑肥に吸わせろ。リン過剰の場合


投入してしまった家畜糞の影響を抜くのは難しい。


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