前回のmRNAワクチンはRNAi治療薬の発展にも貢献するはずの記事までで、最近非常に注目されているmRNAワクチンの開発が如何に凄いことで、夢膨らむ技術であることを触れた。
ウィルスから得られる知見は他にもたくさんあるので、それらも触れていくことにする。
はじめに某大学のプレスリリースのURLを貼っておく。
哺乳類の胎盤形成にはウイルスが関与しており、その遺伝子は順次置き換わることができる - 東京大学大学院農学生命科学研究科 研究成果
ページのタイトルから推測できる通り、哺乳類の進化において、とあるウィルスの感染が重要であった可能性が高いという内容になっている。
この研究報告には内在性レトロウィルスという名称が記載されている。
内在性レトロウィルスとは何なのか?
それをこれから触れていくことにしよう。
はじめにレトロウィルスについてを調べてみる。
株式会社南江堂から出版された生命科学のためのウイルス学 感染と宿主応答のしくみ,医療への応用をレトロウィルスの記述を確認してみると、レトロウィルス科のゲノムの過多が(dsDNAを介して)2組の同一RNAと記載されている。
ぱっと見、DNAとRNAの記述があるため、DNAウィルスかRNAウィルスかわからない。
実際にはレトロウィルスはRNAウィルスに分類されている。
では、dsDNAという記述は一体何なのだろうか?
dsDNAのdsは二本鎖という意味があり、
DNAの説明でよく見かける上のイラストのようなもののこと。
RNAウィルスであるレトロウィルスは細胞内に入り込んだら、逆転写酵素というものを介し、dsDNAを合成して、宿主細胞のDNAに入り込んでしまう。
この説明だとよくわからないので、いつものわかりやすいかしらないが、3Dプリンタの例を挙げる事にしよう。
いつものように赤いUSBメモリをウィルスに見立てて、製造ラインに入り込んできた赤いUSBメモリは3Dプリンタには向かわず、重要なデータが入っているパソコンに向かう。
赤いUSBメモリはパソコンの補助記憶装置(HDDやSDD)に自身のデータを書き込む。
この赤いUSBメモリは質が悪い事に、記憶装置のデータの保存方法の規則を無視して、データの間に無理やり入り込む。
何らかの条件により、パソコンに組み込まれたデータを元に赤いUSBメモリが合成されはじめる。
赤いUSBメモリがパソコンに入り込んで、赤いUSBメモリが大量に作られる過程を、生命科学の観点に戻ってみてみると内在性と呼ばれるものになる。
再び、3Dプリンタの例に戻る。
パソコンの補助記憶装置内に赤いUSBメモリのデータが組み込まれているので、製造ラインを複製した時に赤いUSBメモリのデータ付きでパソコンも複製される。
この例の赤いUSBメモリ内に有益なデータがあったとしたら、赤いUSBメモリが複製されても悪いことではない。
これが冒頭の哺乳類の胎盤でウィルスの遺伝子が使われているという話に繋がる。
もちろん、宿主細胞に悪影響を与える遺伝子を組み込まれる可能性もある。
ちなみに哺乳類のDNAの中に内在性レトロウィルスの断片が多く存在していて、その量は全体の8%にもなるらしい。
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