前回のmRNAワクチンの技術の凄さに感動したの記事の続き。
前回はmRNAワクチンの開発に関する読み物の紹介をし、mRNAワクチンの開発で急速に発展した脂質ナノ粒子(LNP)が、mRNAワクチン以外でも有効になる可能性が非常に高い事を知った。
mRNAワクチン以外で頻繁に挙がるものとして、RNA干渉( RNAi と略す)を利用する薬を開発出来る事を紹介した。
このRNA干渉だけれども、ちょうど私が学部生の頃にRNA干渉に関する発見が相次ぎ、所属していた研究室の教授のテンションが上がり続けていた事を思い出す。
RNA干渉の発見は生命科学の発展に大きく関与すると。
RNA干渉について簡単に触れる為に、わかりやすいんだかどうだかわからないが、
セントラルドグマを踏まえてコロナウィルスについてを知るの記事で用いた例えを再び持ち出す事にする。
黒いUSBメモリが本来動いて欲しいものだとして、
悪意のある赤いUSBメモリがたくさん入り込んできたとする。
作業をする人が色を区別なく、USBメモリのデータを使ってプリントする場合、確率的に赤いUSBメモリを持って3Dプリンタに差し込む事が多くなるはずだ。
ここで不要なUSBメモリを壊す専門家を呼ぶわけだけれども、壊す人もどれを壊して良いかわからない。
USBメモリにだけ張り付くシール(灰色)が付いているものを壊すというルールを加えれば、壊す人は少ない情報で的確にUSBメモリを壊す事が出来る。
この灰色のシールは優れもので、シールをUSBメモリに向けて投げるだけで、なぜか赤いUSBメモリにだけ特異的に張り付く特徴がある。
今回の例で登場した灰色のシールを実際のRNA干渉に当てはめると、siRNA(small interfering RNA)と呼ばれる非常に短いRNAでsiRNAが張り付いたmRNAはタンパク質の合成に利用される前に切断されて無効になる。
切断される現象のことをRNA干渉( RNAi と略す)と呼ぶ。
※例にいる壊す人をRISC(RNA induced silencing complexの略)と呼ぶ事にする。
任意のmRNAを無効化することが何が凄いのか?と疑問になるかもしれないが、例えば、癌細胞で細胞の増殖に直接関与するmRNAが特定されていたとすれば、癌のmRNAに特異的に張り付くsiRNAの投与ができれば、癌細胞の増殖を抑えることができ、その間に様々な治療を行う事ができるようになる。
RNAウィルスの断片をsiRNAにすれば、細胞内でのウィルスの増殖も抑えられる。
※2020年のノーベル賞の遺伝子ドライブの背景にあるCRISPRが似たような動きになる
コロナ渦でのRNAワクチンの開発の裏では、今回紹介したような可能性が向上したことになる。
ちなみにsiRNAは特異的にmRNAに作用すると記載したけれども、細胞内でsiRNAよりももう少し緩く作用するものでmiRNA(microRNA マイクロRNA)というものがある。
関連する読み物
竹田篤史等 植物ウィルスとRNAi - 化学と生物Vol. 43, No. 7, 2005
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