前回の成虫で休眠する甲虫は土壌で何をしているのか?の記事で、コガタルリハムシという成虫で休眠をする甲虫に触れた。

コガタルリハムシは土壌で休眠中に抗菌性のペプチドを合成するが、

不思議なことに自身に影響を与える菌ではなく、ジャガイモの乾腐病菌の菌糸の伸長を抑制する物質であった。


もしかしたら畑において天敵以外でも作物に良い影響を与える昆虫は沢山要るのではないか?


ここで気になるのは、

普段よく使用されている殺虫剤が天敵や作物にとって無害(もしかすると有益?)の昆虫も一緒に殺虫している可能性があるかもしれないということだ。


というわけで、

殺虫剤の区分で頻繁に使用されているであろう有機リン系について触れてみる。




有機リン系殺虫剤はその名の通り、中心あたりにリンを含み、このリンが作用点となる殺虫剤のことを指す。


有機リン系殺虫剤には様々な種類があるけれども、

そのうちの二つをここで挙げる。


農薬評価書 フェントエート - 食品安全委員会 8ページより引用


一つはP=S構造を持つもの(フェントエート:PAP等)と


農薬評価書 アセフェート - 食品安全委員会 8ページより引用


もう一つはP=O構造を持つもの(アセフェート等)の2パターンがある。


作用機構についてはP=S構造(チオノ体)の方で見ていくことにする。


P=S構造の有機リン系殺虫剤が対象となる昆虫の体内に入り込むと、シトクロムP450酵素によってP=O(オクソン体)へと代謝される。

この代謝産物がアセチルコリンエステラーゼ(以後はAChEと略す)という酵素に作用して、AChEを不活性化する。


AChEに対して有機リン系殺虫がどのように作用するか?というと、

※話に触れる前にビタミンを理解する為に補酵素を知るを事前に読んでもらったことを前提にして話を進める。



酵素で重要となる鍵と鍵穴の関係において、

上の図の左側の酵素の鍵穴に有機リン系農薬が作用して、鍵穴の形を替えてしまう。



鍵穴の形が変わってしまったため、今まで反応していた鍵(基質)との形が合わなくなって作用しなくなる。


今回の有機リン系殺虫剤が不活性化するAChEは何か?というと、

簡潔にまとめると、神経の興奮を鎮めることに関与する酵素で、

興奮状態を鎮めることが出来ないということは、ずっとエネルギーを使用し続ける状態ということでいずれは衰弱してしまう。


今回紹介した作用点が作物を食害する昆虫だけに効いてくれるか?という疑問に関しては、

AChEは昆虫に限らず動物にもあるので、特定の昆虫に対して選択的に作用させることは難しい。


余談だけれども、

土壌微生物である放線菌が合成するシクロホスチンも今回紹介した有機リン系殺虫剤と同様の作用を示す。

放線菌と協働して軟腐病を減らす


作物にとって良い環境にすることで、土に潜り作物を食害するような昆虫の個体数が減るということがあれば良いな。

ヨトウの天敵を探す


追記

今回の記事は朝倉書店 新版農薬の科学を参考にした