昆虫の更なる理解を求め、
東海大学出版から販売されている耐性の昆虫学という本を読んでいる。
この本を読んでいると、昆虫はとても強く、そしてわからないだらけだということを痛感する。
耐性獲得の速さから栽培で殺虫剤を使用するという選択は実はとんでもない負債を背負うのではないか?と思えてくる。
この手の話は後日にしておいて、
コガタルリハムシという甲虫で興味深い話があったので紹介する。
この昆虫は
タデ科のギシギシ(スイバの仲間)を好んで食すらしく、
野菜を食害しないことから除草昆虫として期待されている。
コガタルリハムシについて簡単に触れておくと、
幼虫期間を経て羽化した後の成虫がわずか1週間程で土に潜って休眠に入る。
休眠は6月中旬から翌年の4月中旬と10ヶ月近く休眠する。
休眠から覚めた後、ギシギシを摂食して卵を産卵する。
日本での6月から翌年の4月までは暑い夏と寒い冬があり、
休眠中にこれらの条件を乗り越えなければならない。
これ以外に重要な要素として、
土中にいる様々な土壌微生物に対しても何らかの防御をしなければならない。
ここで非常に興味深い話があって、
休眠中に発現量が上昇するものとして、休眠期特異的ペプチド(Diapausinと命名)がある。
このペプチドは蛹期では発現が少なく、成虫での休眠時に発現量が多いそうだ。
この手の特定の時期に発現量が増える場合は耐性に関するものが多い為、試験管内で諸々の試験をしてみたところ、
不思議なことに昆虫寄生糸状菌の黒きょう病菌や冬虫夏草のコナサナギタケに対しては作用せず、なぜか植物病害糸状菌の菌糸の生長が抑制されたとのこと。
※文中では植物病害糸状菌はジャガイモの乾腐病菌の名前が挙がっていた。
何故、自身と直接影響のない植物病害糸状菌に対して活性を示すペプチドが合成されていたか?というのは現時点では不明とのこと。
更に興味深いことに、
成虫にDiapausinの発現量を減らす処理をしても、休眠性に関して影響を与えることがなかったという報告もあるので、土壌中の微生物に何らかの影響を与えるためのペプチドである可能性が高くなった。
コガタルリハムシ成虫休眠特異的ペプチド(diapausin)のウシ副腎髄質細胞におけるCa2+取込抑制およびRMAiによる機能解析 - J-STAGE
コガタルリハムシは休眠中という低燃費でなければならない時に、何故Diapausinを合成するのか?
Diapausinには栽培者にとって明るい未来のヒントがあるかもしれない。
読み物
石黒慎一等 特集「昆虫の休眠ー再びー」コガタルリハムシの成虫休眠機構 蚕糸・昆虫バイオテック84(2), 145-154(2015)