トリコデルマを理解する為に古い分類法についてを学ぶの記事に引き続き、一つの菌に二つの名前がある事について触れていこう。
今回の内容は菌類のふしぎ 第2版 形とはたらきの驚異の多様性 - 東海大学出版部を参考にして進める。
前提の知識として、菌(カビ)の生活環には二つのステージがある。
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一つは菌同士が接合して有性生殖を行うテレオモルフと呼ばれるステージと、
US Department of Agriculture, Agricultural Research Service, Systematic Botany and Mycology Laboratory, [1], パブリック・ドメイン, リンクによる
菌(カビ)という言葉で連想する菌糸が無性生殖で増えていくアナモルフと呼ばれるステージがある。
トリコデルマ(ボタンタケ)で考えると、前者の子実体(キノコ等)を形成して胞子を飛ばす方をテレオモルフで、後者の写真のように糸状で広がっているのがアナモルフとなる。
※アナモルフの方は分生子という無性胞子で増殖する
菌の分類の歴史において、DNA解析がなかった頃に、テレオモルフとアナモルフが同種であることを知る事は難しかったため、これらを別種として扱い、テレオモルフとアナモルフに異なる名前が付いた。
ここでアナモルフについて注目すると、アナモルフは無性生殖で増殖をする。
生物学の概念の一つに生物というものは有性生殖をしてこそ生物のライフサイクルは完全となると考えられ、アナモルフは生物学の概念に反するとされ、アナモルフの方を不完全菌と呼ぶようになった。
DNA解析の手法が発達し、今まで別種だとして扱われていた菌が同種であることがわかるようになったわけだが、菌によってはアナモルフの方が産業上重要であった場合、テレオモルフの名前よりもアナモルフの方で呼んだ方がわかりやすいとして、呼び方がごっちゃになっている。
菌に二つの名前があることを把握できた事によって、例えばトリコデルマの話題が挙がった時、もうひとつの方の名前から子実体はどのような形なのか?を調べる事によって、トリコデルマであれば目視で発見は難しいが、キノコであれば発見は楽になるので、土壌の微生物叢の現状のイメージの手助けとなる。
読み物
矢口貴志著 糸状菌の命名法の改訂 - 日本医真菌学会雑誌 第55巻 第1号 平成26年
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