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畑作の輪作の稲作ではリン酸はどのようにして減っていくのか?の記事で、畑作の輪作として水田で稲作をした場合、土壌中のリン酸の量が減ることについて触れた。

リン酸の量について気にする理由は、土壌中の無機リン酸の量が多い状態で栽培を開始すると、病気の発症率が高くなる可能性があり、リン酸自体が土壌中の金属と結合して、難溶性になり蓄積しやすいという特徴があることに拠る。


リン酸は難溶性になり、土壌中に蓄積しやすい、つまりは肥効が遅い傾向にあるということになり、速効性のリン酸肥料とは一体何なのか?ということが気になったので、今回はリン酸肥料について触れていく。




速効性のリン酸肥料として浮かぶものとして、リン酸アンモニウムがある。

リン酸アンモニウムにはリン酸二アンモニウム (NH4)2HPO4 (DAP)とリン酸一アンモニウムNH4H2PO4 (MAP)がある。

肥料でよく用いるのは前者のDAPの方になる。

リン酸アンモニウム - Wikipedia


これらのリン酸アンモニウムは燐安という名称でよく見かける。

燐安の成分にはリン酸とアンモニア態窒素の他に、硫酸や石灰(カルシウム)が少量含まれている。


この燐安がどのように製造されるのか?を見ていこう。




以後の内容はJA全農 肥料農薬部 施肥診断技術者ハンドブック 2003の105ページを参考にして進める


はじめにアンモニアの溶液と反応させるリン酸を得る必要がある。

リン酸の製造には乾式(燃焼、電気炉リン酸)と湿式があるが、前者の乾式は製造コストが大きいため肥料では用いない。


肥料で用いられる湿式を見てみる。


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リン鉱石(燐灰石)を材料とする。

燐灰石の化学組成はCa5(PO4)3(F,Cl,OH)1で末尾のF、Cl、OHのどれかによって見た目が変わる。

燐灰石といえばCa5(PO4)3Fのフッ素燐灰石を指すことが多いらしい。

燐灰石 - Wikipedia


この燐灰石を硫酸(H2SO4)と反応させ、燐灰石を溶かす。

硫酸はリン酸よりも強酸であるため、燐灰石からリン酸液と硫酸石灰(石膏)が出来、少量の溶けやすいリン酸一カルシウムCa(HPO4)が残る。

酸の強さ


この時のリン酸一カルシウムは過リン酸石灰という名称のリン酸肥料として扱われ、おそらくく溶性を示す。

※燐灰石は難溶性として扱われるはず

※他の記述では生成されるカルシウムが第一リン酸カルシウムCa(H2PO4)2と表記されているものもあり、おそらくこれは水溶性を示す。

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過リン酸石灰 - Wikipedia


上記の反応で得られたリン酸液とアンモニア液を反応させることによって、燐安ことリン酸二アンモニウムが生成される。

リン酸液を得る過程でろ過をするが、硫酸石灰は完全に除去出来ずに燐安中に含まれてしまうため、燐安の成分に硫酸や石灰(カルシウム)が含まれることになる。

※湿式燐安には鉱物由来のフッ素、鉄やアルミニウムといった不純物も含まれる


燐安は速効性ではあるが、不純物によって安定化して蓄積しやすい形状のリン酸も含まれているわけで、施肥設計で丁寧にリン酸に細心の注意を払ったとしても、リン酸は残留してしまい過剰になりやすいことが分かる。


燐安という名称から石灰(カルシウム)が含まれているというイメージがわかないので、知らない間に土壌中に石灰が蓄積するという不安もある。


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