イネの花芽分化の条件までの記事で記載している通り、レンゲ米の田をほぼ毎日見ている。
いくつかのレンゲ米の畑で共通していることが、葉の色が薄く、地上部の茂りが少ないが茎は太い。
比較的背丈は揃っていて、田全体で葉の色が整っている。
一発肥料(次の記事あたりで触れる予定)を使っているが、レンゲによる土壌改良によって肥効パターンが変わっている可能性があると予想している。
慣行的な栽培の田と比較して他にも興味深い現象があった。
発根を促進するために行うとされる中干し時になかなかひび割れが発生しないということ。
中干しに関しては水生植物であるイネの根腐れについて考えるの記事に詳しい記載があるので、今回の記事では詳しい記載は端折り話を進める。
土壌の乾燥からひび割れというのは、土壌の物理性から見たら土壌中の有機物の定着量が少ないことで発生するので、レンゲによって土壌環境が改善されたら中干し中にひび割れが発生しないのは当たり前の話である。
※乾燥によるひび割れはクラストと呼ばれている。
露地栽培ではクラストは様々な生育障害を引き起こすので、クラストが発生しない土壌は望ましいが、水田ではどう評価すれば良いのだろう?
転換畑土壌におけるクラスト生成リスクの高い土壌条件 - 農研機構
レンゲ米は今後増えていかなければ、農環境だけでなく社会全体で色々とやばいので、この機会に整理しておく。
※レンゲ米栽培ではない慣行的な栽培の田の中干し
一般的に言われている中干しについてを整理すると、中干し中に発生したひび割れから土壌中に酸素を入れて発根を促進する。
ただ、水生植物であるイネの根腐れについて考えるの記事でも触れたが、酸素運搬が発達しているイネにおいて、酸素を入れる事で発根を促進するわけではなく、ひび割れで酸素を入れて土壌中の有害物質とガス交換して、発根を抑制する要素を減らして、通常の発根に戻すことが真の目的である可能性が高い。
であると、
レンゲ米の田で中干し中にひび割れが発生しないということで有害物質の発散ができなくて悪影響を与えるのでは?という心配が生じる。
ここで有害物質を挙げてみると、硫化水素ガスと(多量の)アンモニアガスの2つが挙がる。
※メタンガスも意識しておく必要はあるかもしれない。
どちらのガスも根が触れると炎症する要因になるわけだけれども、発生源を辿ると、元肥で硫酸塩系の肥料や家畜糞の多投後に田に水を張って酸素が少ない状態になると発生する。
硫酸塩系の肥料として有名なのが、硫安、キーゼライトと石膏で、硫安を元肥で使うことはなくなったけれども、他の2つは元肥でよく使われる。
※硫化水素は土壌中の鉄の吸収を妨げ、秋落ちの要因になる
この有害なガスのガス交換の問題はレンゲという緑肥を事前にかますことで、問題は軽減される。
中干しにはデメリットもあるはずで、すぐに思いつくこととして二点ある。
ひび割れが発生するということは、強烈な力で土壌を引きちぎる行為であるため、ひび割れの箇所にあった根が損傷を受ける可能性がある。
生育に最も重要であった良質な根が損傷を受けていれば、立ち直りに時間がかかるし、病気にも感染しやすくなる。
もう一つは中干し中に新たに発生した根のROLバリアの質がおそらく低くなること。
バリアの質が低ければ、後に入水した後の根のパフォーマンスは期待以下になるはずなので、品質の向上の為には水管理を徹底しなければならない。
田植え前のレンゲの栽培によって中干しの効果が薄いのであれば、新たな栽培体系の確立が必要になることは自明であって、中干しの意義から判断するに、元肥の設計に意識を向ける必要があることがわかる。
というわけで、最近よく使われている一発肥料について見ていきたいと思う。
-続く-
余談
数年前に稲作の肥料の偽装問題が話題になった。
配合肥料の窒素分の確保で本来であれば革粉であったところを硫安にして販売していた。
この時、NPKの比率が変わっていないから問題は小さいという意見をちらほらと見かけたが、今回の話からわかる通り、窒素分として硫安を入れていた事は深刻な問題となる。
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