前回の記事までで、
栽培で非常に厄介な軟腐病菌と青枯病菌はクオラムセンシングという仕組みで、
周囲で仲間が十分数増殖できたことをきっかけに病原性の物質を合成して宿主である作物を攻撃する。
仲間がある程度の増殖は周辺のクオルモンの濃度を見ている。
このメカニズムに関して興味深い論文を発見した。
青枯病菌 Ralstonia solanacearumのクオルモンによる病原性発現 土と微生物 Vol.60 No.2,pp.91〜97(2006)
要約すると、
青枯病菌が増殖する際、3-OH PAMEの濃度の増加が見られた。
この物質こそがクオルモンで、
3-OH PAMEをどうにかすれば病原性は発生しないのではないか?
という仮説を立てた。
話は代わって軟腐病の研究の紹介で、
土壌中からバチルス属の細菌がクオルモンを分解できる酵素(AHLラクトナーぜ)を持っていたので、
この酵素の遺伝子をタバコやジャガイモに導入してみたところ、
遺伝子を組み込んだ植物で軟腐病に対する抵抗性を獲得していた。
青枯病菌に関しても同様の抵抗性が見られたとのこと。
今回のようなクオルモンの作用を阻害することを、クオラムクエンチングと呼ぶことにしているらしい。
他にもアンタゴニスト物質の研究というものもあるけれどもここでは割愛する。
遺伝子組み換え作物は諸々の事情で栽培することはできないけれども、
病原性細菌の毒素合成のトリガーに対して、
土壌中の微生物が分解して無効化することが出来る酵素を合成出来るという事実は希望が見出だせる。
クオルモン分解酵素を合成できる微生物が何なのか?
どんな環境を好んでいるのか?が分かれば、
肥料や物理的にその環境に近づけることはおそらく可能だろう。
ただし、土壌の細菌の知見はまだまだ少ないので、
土壌の細菌の研究を追い続けることを止めてはいけない。
読み物