前回までのあらすじとして、
糠漬けという発酵食品は、食塩による浸透圧上昇により細胞内の成分をスープのようにごちゃまぜにし抽出する。
糠床の糠に住まわせた乳酸菌等の微生物によって米ぬかと抽出したスープ内の有機物を発酵させる。
浸透圧による細胞内の成分の抽出によりミネラルの吸収効率を高め、
発酵の過程を経て、有機物の吸収効率を高めつつ、
繊維質は残すので、繊維質の摂取の恩恵も受けられる。
前の記事でも書いたけど、
乳酸菌はただひたすらにデンプンを乳酸に分解するだけでなく、
当然生理活動の一貫として他の物質の合成も行う。
せっかくの機会なので、
乳酸菌というキーワードで論文検索を行ってみた。
糠漬けではないんだけれども、
京都の漬物の千枚漬けで下記のような論文が引っかかった。
漬物からγ-アミノ酪酸(GABA)高生産性乳酸菌の分離とその応用 〔生物工学会誌 第85巻 第3号 109–114.2007〕
要約すると、
千枚漬けの乳酸発酵時に関与している乳酸菌から、
γ-アミノ酢酸(GABA)をたくさん生成する株を見つけたよ。
※γはガンマと読む
※乳酸菌という菌がいるわけではなく、乳酸を合成する菌をまとめて乳酸菌と呼んでいる
この株は培養時にグルタミン酸ナトリウムを添加するとγ-アミノ酪酸をたくさん合成することがわかった
乳酸発酵時はpHは低いけど、γ-アミノ酪酸が合成される際にpHの上昇も観測された。
ここに出てくるグルタミン酸ナトリウムというのは、
以前、光合成からアミノ酸の合成へで記載した光合成時に最初に合成されるアミノ酸からなる塩で、
タンパクを構成するアミノ酸の一種なので、
当然タンパク質を(消化)分解する際に生成されるアミノ酸でもある。
γ-アミノ酢酸はグルタミン酸デカルボキシラーゼ(以後GADと略す)という酵素がグルタミン酸を基質として合成される。
※カルボキシラーゼは脱炭酸酵素のこと。反応式の中で炭酸が抜けている。
この酵素はピリドキサールリン酸(ビタミンB6の活性型)を補酵素として利用する。
GAD自体は様々な生物で確認されており、
人体では神経の末端あたりで確認され、神経の抑制系の反応時にγ-アミノ酪酸が利用されているとの報告がある。
食料品店でよく見かけるGABA配合
γ-アミノ酸(GABA)には神経の抑制、つまりはリラックス効果があると解釈され、
リラックス効果を食品から摂取しようということで開発されたのだろう。
乳酸菌がγ-アミノ酢酸を合成しているならば、
糠漬けの漬物にもγ-アミノ酪酸が含まれているはずだから、
漬物を食べることでその恩恵を受けられるかもしれない。
γ-アミノ酪酸を摂取して、そのままの形で神経に到達するかはわからないけどね。
グルタミン酸という形では到達するので、
グルタミン酸が人体にとって旨味成分であることは納得できる。
ちなみに乳酸菌はγ-アミノ酪酸を合成して何に使用しているのだろう?
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