土壌分析でリン酸の数値が高い結果が返ってきたら次作は気を引き締めた方が良いの話を伝えた方から、リン酸過剰問題に対して腐植酸の施肥が有効ではないか?と仮設を立て栽培に腐植酸を取り入れてから栽培しやすくなったような気がするという話を聞いた。
この話は実際に栽培が楽になっているのか?
それとも気の所為であるのか?
他の方が懐疑的であったので丁寧に考えていきたい。
まずは腐植酸肥料について触れていきたい。
代表的なものとしてはピートモスだろうか。
ピートモスというのは湿地に生えていた植物が枯れ、湿地に蓄積したものが腐植化した泥炭を農業資材として利用可能にしたものを指す。
ピートモスの大きな特徴はふんだんに含まれる腐植と、未調整であればpHが 3〜4 ぐらいの強酸を示す資材となっている。
最初に思い浮かぶのが強酸を示す肥料を施肥して、土壌のpHに悪影響を与えないか?だけれども、
栽培が不調な畑というのは、リン酸と石灰が過剰であることが多い。
ここでいう過剰成分はおそらくは炭酸石灰とリン酸石灰であることが多く、この状態の土に強酸の腐植酸を施肥したら、前者の炭酸石灰の緩衝作用によって炭酸石灰が減りつつ、土壌のpHはそのままになる。
石灰はカルシウムイオンとして水に溶け、粘土有機複合体から粘土鉱物肥料についてを考えるの記事で触れたような土壌鉱物と腐植を繋ぐ働きを示す。
腐植酸は炭酸石灰の他にリン酸石灰も溶かし、植物にとってリン酸を吸収しやすい形にする。
ピートモスがpHが 3〜4 程の強酸であれば、土壌中の含アルミナケイ酸塩鉱物に作用するはずで、腐植酸の働きによってアルミニウムイオンが溶脱する。
腐植酸はアルミニウムイオンと結合することで強固な腐植酸として土壌中に残り、
(農文協 作物はなぜ有機物・難溶解性成分を吸収できるのか 198ページの図を参考にして作成)
腐植は土壌中のリン酸の固定を防ぐの記事で触れたような腐植酸 + アルミニウム + リン酸のように可溶しやすい状態となる。
腐植酸が土に定着すれば団粒構造が増えたことになるので、糸状菌が活発になる。
糸状菌が活発になれば、糸状菌が分泌するシュウ酸の役割に記載したシュウ酸によるリン酸アルミニウムの溶解が進み、腐植酸 + アルミニウム + リン酸の生成が更に活発になる。
今回の内容を整理すると不調な畑であれば腐植酸の施肥は大変有効な手段である可能性は高いことになる。
緑肥の生育中に腐植酸を利用すると更に効果が大きくなるかもしれない。