今月中旬に肥料関係で大きなニュースがあった。

そのニュースというのがアルカリ性不良土壌向けの肥料を安価且つ環境負荷が少ない形で開発できたというものだ。

Development of a mugineic acid family phytosiderophore analog as an iron fertilizer | Nature Communications


日本国内ではあまり使用する機会はないだろうけれども、開発に要した先行調査や実際の開発で得られた知見というものは、自身の栽培に活かせるヒントが数多くある。

※アルカリ性不良土壌は大陸に多く、日本列島のような降雨量の多い島国では少ない


というわけで、詳細を見ていくことにしよう。




最初にアルカリ性不良土壌について触れる事にしよう。

日本国内でアルカリ性の土壌を思い浮かべてみると、京都北部の舞鶴にある蛇紋岩や斑糲岩のような塩基性の地質由来の土壌や、山口県の秋吉台のような石灰岩の地質由来の土壌がある。

京都北部の舞鶴全般の土壌の考察

石灰岩の成り立ちから石灰性暗赤色土を考える



アルカリ性土壌をイメージしやすくするために、後者の石灰岩由来の暗赤色土と呼ばれる土を見ていく事にする。

石灰岩由来なので、土壌のpHは高くなりやすく、pHが8を超えるところもよく見かける。


高いpHは適正のpHを考えるの記事で触れたとおり、植物の根で鉄(Fe)やマンガン(Mn)の吸収量が落ちてしまう。

落ちる要因は土壌のpHが高いと、土壌中の鉄が土壌水分に溶脱しない事に依る。


鉄やマンガンや光合成にとって重要な要素であるため、これらの成分が吸収できないと生育ができない。

重要だけど扱いにくいものでもある二価鉄

酸素発生型光合成の誕生の前に


前述したように日本でもアルカリ性土壌があり、これらの土壌でも生育している植物がいるため、これらの植物にはアルカリ性土壌を生き抜く機能というものがあるはずだ。

高知県立牧野植物園の門の前に立つ


アルカリ性土壌を生き抜く機能で有名なものに



I, Silvercat, CC 表示-継承 3.0, リンクによる


イネ科のオオムギの根から発見されたムギネ酸で、上の構造がうまく折り畳まれて鉄に対してキレート作用がある。

様々な場面で利用するキレート

ムギネ酸 - Wikipedia




冒頭の論文では、ムギネ酸の合成を試みていたが、ムギネ酸の左端のNを含んだ箇所が高価であったらしく、現実的ではなかったそうだ。

左端のNを含む箇所をアミノ酸に変える技術を用いて、いくつかのアミノ酸に置換して機能を試してみたところ、


NEUROtiker - 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, リンクによる


プロリンに置換したプロリンデオキシムギネ酸(PDMA)が同等の結果になったそうだ。

プロリン自体がアミノ酸の工学の発展により非常に安価であるため、ムギネ酸の合成にかかるコストが大幅に削減される。

アミノ酸生成菌が関与した黒糖肥料



とりあえず、今回得られた知見は緑肥の活用の場で活かされる。

石灰性暗赤色土を見かけたら、イネ科の緑肥の採用で栽培状況は改善されるはず。


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