前回までの記事でクオラムセンシングやバイオフィルムを見てきて、これらの知見が栽培で応用出来ないかと色々と検討してきた。
最後に昔から言われてきた根圏の微生物との共生で
みすず書房のこれからの微生物学 マイクロバイオータからCRISPERへに記載されている内容の紹介で締めることにしよう。
上記の本の98ページの細菌と植物の成長の話題に下記の記載がある。
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細菌は成長と発達を刺激する植物ホルモンも産生できる。たとえば、植物の成長と発達の異なる局面に関与するオーキシンである。細菌と植物の直接接触は必ずしも必要ではない。特定の微生物は揮発性の有機成分を放出するからである。最もよく記録されている例の一つに枯草菌があり、3-ヒドロキシ-2-ブタノンと植物の成長を促進する2、3-ブタンジオールを産生する。
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※みすず書房 これからの微生物学 マイクロバイオータからCRISPERへ 98ページより抜粋
オーキシンというのは高校理科あたりで習う発根に関与する植物ホルモンで、3-ブタンジオールも植物ホルモンのオーキシンに含まれる。
枯草菌とブタンジオールで検索してみたところ、
神戸大学の微生物機能化学研究室で枯草菌のB. subtilisでブタンジオールの高収率化を目指す研究がされていた。
B. Subtilisは昨日のバイオフィルムの内容でも登場した。
話は変わるけれども、上の研究室のサイトでとある用語が目についたので再び検索してみたところ、納豆菌の育種による納豆の差別化と品質向上 化学と生物 Vol. 53, No. 11, 2015というものに行き着いた。
納豆菌というのは、B. Subtilisの一種で、気になったフレーズというのが、
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枯草菌は,菌体外にフィチン酸分解酵素(フィターゼ)を分泌することが知られており,納豆菌もフィチン酸を分解する。
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※納豆菌の育種による納豆の差別化と品質向上 化学と生物 Vol. 53, No. 11, 2015 790ページより抜粋
一般的に植物と枯草菌との共生でリン酸の吸収が高まると考えられているが、この文章だと有機態リン酸(フィチン酸)の吸収が高まるように見える。
これには心当りがあって、有機態リン酸は土壌分析のトルオーグ法で検知できないリン酸である。
有機態リン酸は米ぬかや家畜糞堆肥によく含まれているので、
家畜糞堆肥を頻繁に施用している土壌では有機態リン酸が蓄積されやすい。
たとえばこのような分析結果の土壌があって、この土壌では以前、家畜糞堆肥で土作りをしていたらしい。
このような結果であったので、石灰とリン酸を極力入れずにCECを高めるように腐植と粘土鉱物の組み合わせ主体を続けると、
何故か、年々リン酸の値が高くなっていくという現象がある。
これは家畜糞堆肥から腐植主体に切り替えた土壌の大半でこの現象が見られる。
腐植質の肥料にリン酸が含まれているだろうけれども、リン酸の値の上がり方が半端ないから、土壌中の有機態リン酸がトルオーグ法で感知できるリン酸塩に変わっているのだろうと判断していた。
この現象がB. Subtilisの影響であるならば、この先には輝かしい未来が広がっているように見えてくる。