前回まで細菌の増殖関連でクオラムセンシングというものを見てきて、クオラムセンシングを制御できるようであれば作物で細菌由来の厄介な病気の発生を抑えることが出来るといううことを見た。
再び、
みすず書房のこれからの微生物学 マイクロバイオータからCRISPERへに戻って、植物とバイオフィルムで根から発症する病気を抑制する話題に触れてみることにする。
詳細に触れる前に、バイオフィルムについて触れておくと、微生物が集まって、微生物によって形成される構造体を指す。
(主に)細菌が細胞外に粘性のある多糖(EPS)を分泌して菌膜を作り、その中に沢山の土壌中の微生物が入り込む。
EPSは外界からのバリアや物質の運搬経路の役割を果たし、環境や化学物質から菌膜の内側にいる微生物らを守る。
病原性の細菌にバイオフィルムを形成されたら非常に厄介だ。
これらを踏まえた上で、作物とバイオフィルムに関することを調べてみると、植物の生育促進への利用に資する,枯草菌の転写応答機構の研究という日本農芸化学会の講演の資料に辿り着いた。
要約すると、植物名の記載は見当たらなかったので仮に植物で普遍的なものだとして、
図:植物の生育促進への利用に資する,枯草菌の転写応答機構の研究 30ページより引用
植物の根から土壌の微生物への栄養と一種のシグナル(フラボノイド)を分泌し、それに応答した枯草菌が根の周辺でバイオフィルムを形成する。
※上の図のB.subtilisが枯草菌を指す
バイオフィルムを形成することで、周辺の他の微生物らが植物の根に近づくことが困難になり、根の病気の抵抗性が増す。
更に根から鉄や銅の吸収を促進するような物質(シデロフォア)を枯草菌が分泌する。
枯草菌(バチルス)といえば刈草の上で発見されたことで有名な土壌微生物で、比較的、作物にとって有効な関係を結ぶ種類が多いイメージのある土壌の細菌だ。
納豆菌も枯草菌の仲間で、藁とダイズで増殖が活発になっている。
微生物の増殖というのは非常に難しいものがあるけれども、枯草菌がグラム陽性でカタラーゼに対しても陽性なので、
取り急ぎ土壌の排水性や保水性を高めることから始めれば、今回のような根の周りの枯草菌のバイオフィルムの恩恵にすがれるかもしれない。
行き着くところはいつも一緒だな。
余談だけれども、枯草菌が周辺に根があることを認識するために根から分泌されているフラボノイドを目印にしているが、植物にとってフラボノイドの合成にはフェニルアラニンというアミノ酸が必要なわけで、フェニルアラニンと合成に関与する各種微量要素等も枯草菌のバイオフィルムの恩恵にすがりたければ意識する必要があるなと。
補足
作物の病原性細菌たちのクオラムセンシングで紹介した論文にバチルス属の細菌から病原性細菌のクオルモンを分解することを発見したという記載があった。
作物にとって良い土が何でこんなにも病気の発症率が減るのか?
少しずつ着々と見え始めてみた。