作物に油脂の肥料を与えたら、光合成の質は向上するのか?までの記事ま、テルペン系香気物質の合成について見てきて、テルペン系香気物質の合成の出発物質がアセチルCoAで、脂肪族の香気物質の合成の出発物質もアセチルCoAで、もしかして作物に脂肪酸を直接与えたら、余剰になるであろうアセチルCoAでテルペン系香気物質の合成は盛んになるのか?という内容を記載した。
なんて上記では書いたが、一旦冷静になって考えたい。
ここでいうアセチルCoAからテルペンの前段階のイソペンテニル二リン酸(IPP)の合成はメバロン酸経路と呼ばれる段階を経て合成されるのだけれども、IPPの合成には他に非メバロン酸経路と呼ばれる系がある。
もしかしたら、テルペン系香気物質の合成は非メバロン酸経路のみであった場合、今回の冒頭に記載した予想は正しくないことになる。
というわけで、非メバロン酸経路について丁寧に見ていって、冒頭の予想を考えていきたい。
非メバロン酸経路は、
ピルビン酸と
グリセルアルデヒド-3-リン酸を出発物質とし、
1-デオキシ-D-キシルロース-5-リン酸(DXP)等を経て、
IPPになる。
ピルビン酸とグリセルアルデヒド-3-リン酸は糖からエネルギーを取り出す過程(解糖系)で名前を見かける化合物だ。
非メバロン酸経路は色素体で行われる。
次に気になることは、メバロン酸経路と非メバロン酸経路で合成されたIPPは同じ用途で利用されるか?になるだろう。
この疑問に関しては、
羊土社から出版されている基礎から学ぶ植物代謝生化学を本棚から引っ張り出してきて確認してみた。
メバロン酸経路由来のIPPは主にステロイドの合成に利用され、非メバロン酸経路由来のIPPはテルペン等の合成に利用されるそうだ。
次に疑問になるのが、メバロン酸経路で合成されたIPPは非メバロン酸経路、つまりは細胞質から色素体に移動するか?だけれども、この疑問に対しても上記の方に記載があり、移動はするが少量であるそうだ。
これらの内容から、冒頭で挙げたアセチルCoAの使用を節約したら、余剰分のアセチルCoAがテルペン系香気物質の合成に利用されるか?の疑問だけれども、可能性は低いという答えにたどり着いた。