前回の亜鉛を含む農薬の作用をI-W系列から考えてみるで亜鉛を含むマンゼブという農薬を見て、
実際の作用の話に入る前に金属酵素全般の話を書いた。
マンゼブの作用を改めて記載すると、
ジチオカーバメート系の殺菌剤であり、SH酵素や金属酵素を阻害することにより殺菌活性を有すると考えられている
ということだった。
とりあえず、SH酵素阻害から触れてみることにする。
SH酵素阻害と言えば、
銅を含んだ農薬のボルドー液の際で話題に挙がったけれども、
農薬の専門書を元に再び見てみることにする。
朝倉書店 農薬の科学 -生物制御と植物保護- 80ページより引用
2004年と古い本であるが、朝倉書店から改訂版や新しい本が出ていないので、
現在の傾向と大きく異なっていないであろうと信じて
上の図は糸状菌(カビ、菌)の阻害剤の標的部位になるわけだけれども、
SH酵素阻害が数カ所見られる。
解糖系やクエン酸回路周りなので、
有機物の代謝によってエネルギーの獲得をする箇所を阻害するのがSH酵素阻害だと見て良いだろう。
SH酵素阻害の実際の内容を確認すると、
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①システインのSH基を活性中心とする酵素(酸化還元酵素や脱水素酵素)の直接阻害(酸化還元阻害剤)
②補酵素CoAやリポ酸のSH基との反応による酵素反応阻害(アルキル化剤)
③酵素反応に補酵素として必須の重金属をキレートすることによる酵素反応阻害(キレート化剤)
をSH酵素阻害剤と総称する
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朝倉書店 農薬の科学 -生物制御と植物保護- 102ページより引用
星屑から生まれた世界 - 株式会社 化学同人 38ページより引用
農薬に含まれる銅や亜鉛はI-W系列の規則に基づくと金属酵素の阻害になるため、
上記の作用だとおそらく①に分類されるだろう。
システインとはS(硫黄)を含んだアミノ酸で、
タンパクの合成の際のSH基同士の強力な結合により耐熱性を得たりすることに役立つ上、
硫黄そのものの話として、
いつも紹介している
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この本で周期表でいうところの酸素原子の下に当たる硫黄原子が電子の安全な運び手となり、
硫黄化合物が電子伝達のルートからこぼれ、結合にも参加せず体内の機能を乱しやすい電子を拾い上げ、細胞内を掃除する。
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と記載されている。
星屑から生まれた世界 - 株式会社 化学同人 30ページより引用
硫黄化合物といえば、パッと浮かぶものでグルタチオンがある。
※物質名にチオがあるものが硫黄化合物だと見て良いだろう
グルタチオンは光合成の際の余剰の電子から発生する活性酸素を活用する際に役立っている可能性がある。
話は脱線したけれども、
殺菌剤のSH酵素阻害剤は菌や細菌の呼吸周りを阻害するという認識で良いだろう。
以上の内容を踏まえた上で最後にジチオカーバメートという用語を整理してみると、
ジには2つ以上という意味があって、チオは硫黄
カーバメート(ウレタン)とはカルボニル基(-COOH)を介してアミノ基(-NH2)とアルコール基(-OH)が反応し、アミンの窒素とカルボニル基の炭素の間で新たな共有結合が形成された化合物である。
というわけで、
ジチオカーバメートとは
この構造の左側の構造を指していることになるのね。