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BB肥料を使う時は被覆材に気をつけた方が良いの記事で硫黄コーティングで被覆している肥料の殻が土壌微生物の作用によって硫酸イオンとして溶脱するという内容に触れ、これが稲作においてガス発生要因になる可能性があるという内容を記載したので、そろそろ水田における酸化還元電位(Eh)について触れる必要があるかなと。


酸化還元電位自体については最近の肥料でよく見かける酸化還元電位の記事で触れたので概要だけ。

電子を放出しやすい物質(電子供与体)と電子を放出し難い(受け取りやすい:電子受容体)があった場合、電子供与体から電子受容体に電子が移動する時に発生する電位のことで、紛らわしいが電子がよく発生しているところの方が数値が小さくなる


畑で電子をよく放出するもので有名なものが


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米ぬか等に含まれる炭水化物の構成単位である糖で、様々な生物は呼吸を経て糖から電子を取り出している。


一応ここで酸化還元についても触れておくと、ある物質から電子を抜かれることを酸化といい、ある物質が電子を受け取ったことを還元という。


畑でよく電子を受け取るもの(電子受容体)といえば、硝酸あたりだろうか。

糖は酸化されて有機酸になり、硝酸は還元されて亜硝酸→アンモニアになる。




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水田という土の上に水がある環境というのは、電子受容体の意味合いを持つ酸素の量が少なく、土壌の微生物の嫌気呼吸で分解された糖の電子の一部はそのまま放出?される。

このはぐれ電子みたいなものが土にある鉄や硫酸根を還元する。


鉄(Ⅲ)を還元すると鉄(Ⅱ)になり、還元の際に窒素固定が行われたり、還元されたことによって植物にとって利用しやすい鉄の形状になる。

稲作で使い捨てカイロ由来の鉄剤の肥料があれば良い


硫酸根(硫酸イオン)が還元されると硫化水素になり、植物の根に重大な被害を与える。

水生植物であるイネの根腐れについて考える




ここまでの話で稲作で土の物質が還元される時、できれば鉄(Ⅲ)の還元のみ発生して欲しいと思うはず。

これに関して土の還元には電位ポテンシャルが高い※ものがある時は高いものから還元されるという規則がある。

※この表現が正しいか?自信はない


要約すると、鉄(Ⅲ)は硫酸根よりも還元されやすいので、鉄(Ⅲ)がある時は鉄(Ⅲ)から還元されるということ。


還元されやすい順を記載すると、

硝酸イオン → 窒素ガスや一酸化二窒素になる

マンガン

硫酸イオン → 硫化水素

二酸化炭素 → メタンになる

エッセンシャル土壌微生物学 作物生産のための基礎 - 講談社の98ページを参考にした

※一酸化二窒素とメタンは強烈な温室効果ガス

強力な温室効果ガスの一酸化二窒素


稲作の肥料で鉄剤を入れて秋落ちを回避するというのが、硫化水素の発生を抑えることを目的にしているのが分かるし、稲作の肥料として完熟の家畜糞(硝酸態窒素が豊富に含まれている)の施肥がNGであることが分かる。


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冬の田の土の荒起こしが夏場の稲作中に蓄積した鉄(Ⅱ)を鉄(Ⅲ)に戻すために行っているということもわかってくる。

ただ、荒起こしによって土壌粒子から有機物が剥がれるのはよろしくない。

酸化させるのであれば、田全体で植物の根がはびこることで鉄(Ⅱ)を消費した方が遥かに良い。

乾土効果について考える


田の酸化還元電位について概要が見えてきたので、これから田で土作り(物理性を改善)をすると硫化水素やメタンが発生しにくくなるという命題について考えていくことにしよう。


-続く-