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いもち病菌よりもはやくに葉の上にいてほしい菌たちは本当にいて良いのか?の記事で、葉面常在菌が合成するエステラーゼ活性を示す酵素を葉に対して高濃度散布したら、植物が枯れたという研究報告があることを紹介した。

枯死の原因は、酵素が葉表面にあるクチクラを脂肪酸に分解して、紫外線や乾燥等に弱くなったことだとされている。


では何故、葉面常在菌はクチクラを溶かすのだろうか?

いもち病菌よりもはやくに葉の上にいてほしい菌たちの記事で触れたマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)に注目して考えてみることにする。




mel_structure

※図:高橋大介 戸嶋一敦 マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)の効率的全合成と抗菌活性を指標とした構造-機能相関の解明 - オレオサイエンス 第20巻第5号(2020) p26 Fig.1より引用


上の図は数種類あるMELの構造の数種になり、図の上と左の()nがある箇所が脂肪酸になっている。

中心に糖があり、糖脂質となっている。


酵母がMELを合成する際に、材料は何か?を調べてみると、玉井正弘ら マンノシルエリスリトールリピッド生産に及ぼす炭素源の種類の影響 - 広島県立西部工業技術センター研究報告(200)に詳細が記載されていた。


前回までの記事で話題に挙がっていたPseudozyma antarcticaでは、植物油脂等から合成されたと記載されている。

他の菌になるが、更に詳細が記載されていて、脂質の方がリノール酸や大豆油で、糖はグルコース等の様々な単糖でMELが合成されたと記載されている。

植物における脂肪酸の役割


酵母がクチクラを分解して脂肪酸が生成された内容と、MELの合成には脂肪酸が必要という内容が合致するので、酵母はクチクラを餌にして増殖するという捉え方をしても大きな間違いはないだろう。


糖はおそらく溢泌液由来で良いだろう。

溢泌液に虫が集まる




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話はイネのいもち病に戻って、MELがあれば、葉の上に様々な菌が定着する。

それらの菌がいもち病菌が纏うα-1,3-グルカンを分解して、イネが葉の上にいもち病菌が居ることに気が付き、防御反応を示すようにする。

いもち病菌はイネの自然免疫を回避する


という一連の流れを生み出す為には、多少分解されてもガタつかないクチクラの量があり、朝に溢泌液がしっかりと分泌している。


後は栽培に有利な菌が自然に飛んできて葉に付着する事を祈ることになるだろうか。

確度を高める為に、田周辺の生態系を整えておく必要がありそうだ。


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時々広大な田んぼの真ん中に神社や古墳を見かけるが、これらの場所の木々から良質な菌の胞子が田んぼに飛んでいるという事があったら面白い。


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